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2008年1月 9日 (水)

ハイエク 来日講演 (1978)

ハイエク 来日講演 (1978)


参考video ; The Road to Serfdom (YouTube より)



InternetArchiveより

講演ノート/「世界不況からいかに脱するか」

フリードリッヒ・アウグスト・フォン・ハイエク

今日日本でも景気後退している。しかし、容易に脱する方法はない。 政府が政策によって景気の回復を図ることが出来ると考えているならそれは誤りである。

景気後退の基本的な原因は政府が過去に行ってきた政策の誤りである。 その結果発生した景気後退を是正する容易な方法はない。 一国経済を運営するのに政策のあるべき道は十分に安定した経済の繁栄をもたらすことである。 そして避けなければならないのは短期的繁栄を目指して長期的経済に打撃を与えることである。

ここ2ー3年のうちにインフレを克服し、ほとんど安定させた金融政策は西ドイツ、スイスなど少数の国を除けば世界でもっともすばらしい成果を収めている。

しかし、日本には外国から圧力が加えられて、日本政府としては賢明と考えていない政策を追求しなければならないことも。タイム誌によると、福田政権がリフレ政策に成功しなければ危機に立たされるだろうと書いていた。この記事はアメリカが日本に対してリフレ政策をとるよう圧力をかけたことを意味する。

リフレ政策をとるべきだという外国からの要求があるのは、日本経済がその結果インフレ化すれば外国にとって短期的に利益になるからである。しかし、政策の結果を議論する前に今日人々が政府の政策を待ってから自分たちの行動を決定し、政府は急速な景気回復を可能にする手段を持っていると確信していることが問題である。

今日本当に不況克服を求めるなら産業が自信を回復し設備投資を行うことが必要である。それに不可欠なのは経済政策が安定し政府が将来何をし何をしないか、確実に見通せることである。最近各国で新聞、経済学者などが政府は契機を完全に回復させる能力を持っていると主張している。

彼らによると、政府はすきなようにある経済成長率を実現できるようだ。しかし、どの政府も成長率を選択し実現することは不可能である。可能なのは成長を促進する諸条件を整備することだけである。そしてこれに成功したとしても、特定の成長率を達成できなくする環境的諸条件が発生する可能性がある。特定数値の経済成長率が達成可能などという人は全く信用できない。

今景気回復を速めるための政策をするなら、やがて今までよりもっと大きな不安定を発生させる。本当に利益になるのは、人々に自信を持たせ経済環境を安定させることだ。リフレをしろという外圧にゼッタイ負けないこと。リフレ政策の結果はインフレの加速以外の何者でもない。通貨の供給は必然的に増大し、インフレが再燃する。

もちろん、短期的には実物経済も好況化し、多くの人にとってインフレは魅力ある政策となる。この考えは30年前にケインズが言い出して、以後この考えに影響されて政策を運営してきた。しかし、長期的に見るときインフレは決して失業対策とはならず寧ろ失業の原因である。

明日の好況を考えるか、明後日のあるべき姿を考えるか。明日のことしか考えない政治屋たちは長期的には経済をますます悪化させる。真のステーツマンは一国経済に長期的危害を及ぼすことなく安定した繁栄へと導く。大衆の現在の欲求や外圧に屈さず本来の経済的安定をもたらす政策を推進するべきである。

今日の基本的命題である、失業をもたらす本当の原因は何かに移る。失業をなくすには、十分な需要さえあれば良く、需要を刺激することで解決するという素朴な考えがある。過去30年間、完全雇用を達成したければ総需要を増やせばいいという考えが人々を支配してきた。しかしこれは根拠がない。

失業の発生には別の理由がある。ケインズが登場する前に経済学者間で議論の一致していたのは、失業が発生するのは総需要と総供給という単純な関係によるのでなく、需要が経済の諸部門にどのように配分されるのか、供給がそれらの異なった部門にどのように配分されるかによるということであった。部門ごとにみて、需要供給に不一致があるときに失業が発生する。

つまり、配分されている諸需要と供給の間に不均衡が発生するときに失業が発生する。ところで、短期的に経済を拡大させようとすると政策は必ず信用拡大を伴う。それによって経済に短期的ブームがおきることは事実である。しかし、これを別の面から見ると、信用の拡大によって生産資源が経済のインフレ利益のある特定の分野に流れ込み、ある特定目的のための設備投資や建築物が増える。

それらの拡大された生産資源、資本財は刺激策が続いている限りにおいて成立するものだ。しかし、信用の人為的拡大は決して永遠に続くものでない。この好況はその国が持っている貯蓄でまかなわれたものでなく、信用の人為的拡大によってもたらされたものであり、その拡大が終わったとき不況に陥り、失業を生み出す。

ただ、どんな場合でも総需要政策をとる必要がないと言ってはいない。一つの部門の不均衡が他部門に波及し不況が加速化していき、本当の不況過程が発生したときは、一刻も早く通過金融の拡大策を断行しなければならない。

しかしながら、今日の各国経済はそうした事態にはない。今日ある状況はスタグフレーションである。一方で経済成長率が停滞しているが、一方でインフレが依然存在している。そうした経済で総需要の刺激策を採ればインフレの再燃以外にない。

経済の本当の繁栄を望むなら、需要と供給の諸部門への配分の仕方をここで改めて行くことが必要である。生産資源の適正な再配分を実現すること。しかし、そうした生産要素の再配分、需要供給の配分の調整が政策によって人為的に行われうるわけではない。それは、市場の動きに任す以外にない。需要供給の配分の再構成を図るために必要な情報を何人も一カ所で持つことはできない。

市場は無数の経済単位が持っている情報を動員、伝達して教えてくれる。価格機構は何が不足し何が過剰かのシグナルを我々に与えてくれる。

私がいいたいのは、一つは一時的ブームを図ってもその結果不況が発生してくると言うことである。将来、必然的に景気の反動的な後退をもたらすようなブームを発生させないように注意しないといけない。もう一つは、それに失敗し、一時的ブームの反動として深刻な不況になった場合それを是正するための政策過程は苦痛に満ちたモノになり、これを急に是正するのは極めて難しいということだ。

生産よその再配分を進める場合に重要なのは相対価格がどうなっているか、それにとって相対的な需要と供給がどういう関係にあるか、不均衡があれば是正する方法である。市場の伸縮化なくして不可能。今の不況を克服するためには、各産業間においてこれまでより活発に労働その他の資源が自由に移動できるよう市場を伸縮的なモノにする必要がある。

次に、経済の硬直性の問題
今日の不況から脱するには賃金やいろんな財の価格を伸縮的にし、生産要素の再配分を容易にしていくこと。そこで第一に重要なのは、相対的賃金体系を伸縮的にすること。私の理解では、日本の相対的賃金水準は欧米ほど硬直でない。ここ2、3年相当伸縮性がみえる。

ケインズ派の経済学の人は賃金体系は本来極めて硬直的でどうすることもできない与件だという。ケインズは完全雇用が達成されなくてはならないという。しかし、ここでの完全雇用とはケインズタイプの完全雇用である。それには第一次大戦直後のイギリスの特殊事情が背景にある。

イギリスは第一次大戦後ポンドの過大な切り上げのため実質賃金が対外的に高いものになった。当時のイギリス経済で完全雇用を達成するには実質賃金の引き下げをするしかなく、そこでインフレを発生させようとした。

さらに今日、西欧諸国において労働組合の政治的力のため名目賃金が極めて硬直的なものになっている。賃金はいまや労働市場で決定されるのではなく、政治的に決定されている。それ故産業部門間の労働の移動もかつてほど自由でなくなった。それを背景にして、総需要の管理政策がとられ、総需要を増大させることで物価水準を引き上げ、名目賃金の実質価値を引き上げ、完全雇用を達成する形になってしまった。相対的賃金体系の伸縮性は完全に消えてしまっている。

私はイギリス国籍だが、残念なことにイギリスは労働市場における抜本的な改革がなけれ破産に陥る運命にあると言っていい。労組はその政治的権力を増大させたために、利益を増大させるどころか自らを自らの手で傷つける。

もうひとつ、賃金でなく、労働者自身の産業分野間の移動の硬直化。相対的賃銀水準が伸縮的なら平均賃金水準はより早く上昇するハズ。ところが日本ではそれだけで問題は解決しない。相対的賃金体系の伸縮化に加えて、労働構造が変化している経済的諸条件にすみやかに対応していくことが困難に見えるからである。

他の産業分野、会社の賃金が今日より高くても労働の移転が発生しない状況があるようだ。労働者自身の移動という面で、労働市場の伸縮性が他の国ほどあるように見えない。今日、終身雇用制は必要としている構造改革のさまたげになっている。そのために西欧諸国の場合には必要とされないような特殊な対応策を必要とするかもしれない。

しかし、この問題についての本当の分析はまだ日本にないようである。その分析が進み、それに基づいた対応策が労働市場で取られれば、日本経済は先進国でももっとも発展する経済になるだろう。(1978)

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